【前回記事を読む】「それでもヤクザの娘か」同級生に足を引っかけられた少女。まくれた制服の袖の下には、ビッシリと傷跡が残っていて……
Case:C 娘の選択
「お嬢も俺が気付いてることを知ってるんだと思います。ただ、葵さんは久しぶりにできた“何も知らない友人”でしたからヤクザの娘とリストカットを両方知られたことがショックだったんでしょう」
「だったらせめてリストカットはやめさせましょうよ」
「こちらとしてもそうしたいのですが、あのリスカの原因の半分以上は我々にありますから強く言えないのです。ヤクザの、それも犯罪者の娘として生きなくてはならない心労をリストカットで紛らわせるのなら好きにさせたほうがいいかと……」
「でも……」
「いえ、分かってます。葵さんのおっしゃることはごもっともです」
鬼塚は大きな体が小さく見えるほど弱っていた。凛とした佇まいの葵とは対照的で、さながら娘を持つ父親との二者面談のような様相を呈している。
「雛菊ちゃんがああなってしまった原因に心当たりはありますか?」
「むしろ心当たりしかないですね……。全てが原因のようなものですので」
「聞かせてください。何か力になれることがあるかもしれません」
すると鬼塚は遠い目をして「はてさて、どこから話したもんか……」と呟いた。虚空を眺めるその様は、今はもういない誰かに話しかけているようでもあった。
★二〇〇二年(平成十四年)
高校を中退して非行に走り、育った施設を追い出されるような形で飛び出した鬼塚は猥雑な繁華街の裏路地でふとした事から数人のチンピラに因縁をつけられ、元の人相が分からなくなるほどボコボコにされていた。
朦朧とした意識の中、次のパンチあたりで気絶するだろうなと思った鬼塚だが、いつまで経っても拳は飛んでこない。その時、目の前で一丁前にファイティングポーズを取っていた男が小さな悲鳴をあげていたのだが、片耳の鼓膜が破れていた鬼塚はそれを聞き逃した。