「おいクソガキども。テメェら誰の許可取ってここで暴れてんだ」

ドスの効いた声がファイティングポーズを取っていた男の後方から轟く。

チンピラたちは突然現れた男に向かって意味の分からない怒声を放ったが直後に悲鳴が続けざまに上がり、それと同時に手のひらに収まりそうなサイズの石が鬼塚の足元に転がってきた。どうやら男はその石をチンピラたちに向かって投げ、見事命中させたらしい。

「俺は今すこぶる機嫌が悪いんだよ。嫁の体の調子は芳しくねぇし、もう一週間も女を抱いてねぇ。おまけにカスどもが俺のシマを荒らしてると来た」

男はひとつだけ残った石を手元で弄びながら少しずつチンピラたちへ歩み寄ってくる。

黒光りする革靴に同色のスラックスとワイシャツを組み合わせ、ボルドー色のジャケットを羽織ったその男は一目でカタギではないと分かる出で立ちだった。坊主に近い頭髪と口元を覆うヒゲは威厳たっぷりで、まともな感性を持った人間であればひとたび目を合わせればそそくさと離れてしまうだろう。

「ここはお前らジャリの遊び場じゃねぇんだ。まとめて面倒見てやっからさっさと来い」

それからの数分間に繰り広げたられたのは喧嘩などではなく一方的な虐殺だった。

しばらく経ってチンピラたちが自力で立ち上がれないほど打ちのめされ、一息ついた男はまだ鬼塚がこの場に残っていたことを訝しんだ。

「そろそろおまわりが来る頃だ。ここに居たんじゃ、お前まで目ぇ付けられるぞ」

「アンタ……どこの人っすか」

「人に名前を訊ねる時は自分からってパパやママに教わらなかったか。ん?」

「……鬼塚、大吾っす」

「オニヅカダイゴ、か。強そうなのは名前と見てくれだけか」

反論出来ずにいると男は「まぁいい。俺ぁこういうもんだ」と言いながら懐に手をやり、白いカードのようなものを指で弾いて鬼塚の前に滑らせた。恐る恐る手に取った鬼塚はかすれて歪む視界でどうにか文字を追う。どうやらそれは名刺らしい。

「轟……竹虎。東都連合、三代目会長……?」

「これからは場所選んで喧嘩しろよ。じゃあな、ボウズ」

「あ、あの!」

「まだなんか用か?」

「や、その……」

言いたいことは色々あるが一言でまとめるのは難しい。だがこのまま別れてしまえば竹虎とはもう二度と会えないような気がした。その辺に雑草のように生えている末端のヤクザとは違って目の前にいるのは構成員二万人を超える巨大組織のトップに君臨する男なのだ。今日この日この場所で偶然出会えただけでも奇跡のような確率である。

逃したくない。このチャンスを。しかしどうすれば伝わるか。帰る家はない。だがストレートに俺を連れて行ってくださいなどとは言えない。

考えに考えた鬼塚の思考に終止符を打ったのは意外や意外、腹の虫だった。喧騒に包まれた繁華街とはいえ、至近距離で黙りこくっていればその音は予想以上に響く。

「腹減ってんのか、ボウズ」

「……今朝から何も食べてないんで」

「歳いくつだ」

「……今年で十八っす」

「なんだ。まだ食べ盛りのガキもガキじゃねぇか。そりゃいけねぇな。ちょっと待ってろ」

次回更新は9月5日(土)、11時の予定です。

 

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