【前回記事を読む】「俺なんか見てないで、“普通の男”と一緒になってください」…お嬢のためを思って突き放すも、返ってきた言葉に強く言い返せなくて…

Case:C 娘の選択

雛菊はスマホの画面にビッシリと表示された文面を熱心に読み込んだ。

「なるほど……。複雑ですが言われてみれば当然なことばかりですね。命は一度しか貰えない。確かに何度も可能だと理論上は千年も一万年も生きられますもんね。肉体のほうが持たないからあくまでも理論上は、ですけど」

「うん。それに加えて、人を生き返らせるにはもっと複雑な条件があるよ」

「というと?」

「まず、雛菊ちゃんが誰を生き返らせたいのかによるの」

「母です」

「お母さん、か……」

「教えてください。母を生き返らせる方法を」

前回、雛菊と会った時はクールな印象があったが今日は勉強道具をしまう時と言い、人を生き返らせることが可能だと知った時といい、どこか冷静さを欠いているような様子に、葵は僅かな疑問を抱いた。

「まず第一に、雛菊ちゃんが生き返らせることができるのは、雛菊ちゃんが今こうして生き続けていることによって間接的に命を落としている人だけ」

「簡単に言えば、私のせいで死んだ人なら生き返らせることが可能、ということでしょうか」

「そう。たとえば雛菊ちゃんをかばって私が車にひかれて死んじゃったとするでしょ? 私は雛菊ちゃんがいなければ車にひかれず、死ななかったことになる。だからこの場合、雛菊ちゃんは私を生き返らせることが可能ってこと」

「では、葵さんが病気などで亡くなった場合は……」

「うん、それは無理。私の死に、雛菊ちゃんは何も関わっていないからね」

「なるほど……では私が母を生き返らせたいと思えば、それは可能なんですね。母は私を身籠ったせいで……いえ、それだけなら堕ろせば良かった。私を産んだから母は死んだも同然なのですから」

「そういう言い方はやめなよ……」

「ですが葵さん。このルールには大きな欠点がないですか」

「やっぱり気付く?」

「えぇ。つまり私が母を生き返らすには、私自身の存在を抹消する必要がある。そういうことですよね?」

「うん……。だから課長は無意味だって言ってた。生き返らせたい人がいるってことはその人に会いたいってことだから、自分の存在が消えて会えないんじゃ、ね……」

「そうですか。もしも母に会えたならひとこと言いたいことがあったんですけど残念です」

口ぶりのわりにあまり残念そうに見えないのは葵の気のせいではないだろう。この様子だと初めからある程度予想していたようだ。それが葵の罪悪感を刺激することまでは想像していなかったらしいが。