「はいはい。さー乗った乗った。とっととウチに帰りましょうや」
「ちょ、押さないでったら」
雛菊を後部座席に押し込むと、鬼塚は素早く運転席に回って滑らかに車を発進させた。信号に引っかかったタイミングで周囲に目をやると、先ほどまでいた歓楽街と違ってカップルらしき組み合わせが目立つようになる。
「もうじきクリスマスですねぇ、お嬢」
「それ、遠回しに彼氏いないのバカにしてる?」
「まさか。まぁ、心配はしてますけど」
「余計なお世話。ほら、青よ」
「へいへい。しかしお嬢、学校に男友達の一人や二人くらいいるでしょう。告白とかされたりしないんですか?」
「しない。されても全部断る」
「なんでまた」
雛菊はしばらく沈黙して黒曜石のような瞳を鬼塚に向けた。それから窓にコツンと頭を預けて「私、好きな人いるから」と呟く。一方の鬼塚は運転に集中しているため、一連の流れに気づかなかったようだ。
次回更新は8月8日(土)、11時の予定です。
【イチオシ記事】夫の新聞の山から「たー君へ♡ ……晴香より」という便箋を発見。今日も朝帰りの夫に〈晴香さんと一緒?〉とメールした。
【注目記事】「何だ、浮気の心配なんてないのかな?」安心した途端、妻の車に仕掛けたGPSが自宅から20キロも離れた町で止まった!
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp