振り向いてその顔を見た時、思わず彼女はあっと声を上げた。

それは紛れもなく祝田橋の上で見た西須悠雅だった。

「あなたは……」

「覚えていてくれたんだね。確か橋の上で会ったよね。那花麻利衣さん」

「どうして私の名前を?」

「もちろん知っているさ。君のお父さんには大変世話になったからね。それに小さい頃、僕らは1度会ってるんだよ。国際超能力研究所で」

麻利衣は恐怖を感じて少しずつ後ずさりした。

「私に……何の用ですか?」

「囮になってもらおうと思ってね。賽子を呼び寄せるための」

「そんなのお断りします!」

そう叫ぶと麻利衣は俄かに翻り、走り出そうとした。

しかし、その瞬間、全身に雷に打たれたかのような電撃を受け、彼女は地面に前のめりに倒れ込み、白目を剥いて泡を吹き、全身を痙攣させながら意識を失った。

 

国会議事堂周辺は特型警備車やゲリラ対策車が無数に配備されており、ボディアーマーを身に着け、ヘルメットを被った警察官がうようよしており、警備は既に厳重だった。

その様子を遠巻きに眺めていた賽子の頭に突然耳鳴りが聞こえたかと思うと、西須の声が響いてきた。

――賽子、那花麻利衣を預かっている。返してほしければ中央防波堤埋立地のクレマティオ・コンビナートに今から来い。来なければ彼女は抹殺する。

「しくじったか」

彼女はそう呟くと目を閉じた。