母の道
彼が五年生になろうとする頃、お母さんに明るい表情が戻った。
彼をこばとに送ってきた時、玄関前の路上で私と立ち話をした。
お母さんは千葉の大学に入学して障がい児教育を勉強することにした、と明るい表情で打ち明けた。
お父さん、つまり夫から「わがままはこれで最後だよ、って言われた」とちょっと恥ずかしそうに首をすくめた。それにしても勉強の好きなお母さんだ。
お母さんは、障がい児達の将来と、彼らの親は「将来」どのように関わっていくべきかについて知りたいという気持ちを強く持つようになってきたと語った。そしてそれを研究テーマにしたいと言っていた。
お母さんは看護師の国家試験に合格した時よりも明るく元気になった。いろいろ希望を持つようになったようだ。
こだわりや感情の起伏の激しかった息子も、抗精神病薬エビリファイを服用するようになってから落ち着きが出てきて、生活のストレスが減ってきたとお母さんは嬉しそうに言った。
彼が六年生になる直前、母子は千葉のアパートを引き払って東京のマンションに住所を戻した。
お母さんの転居の目的は、服薬で落ち着きが出てきた息子を東京都の小学校の通常学級に転入させることだった。私立の中学校を受験させるためには通常学級に転校し、在籍しているという実績が必要だったのだ。
こばともやめたので彼ら家族との音信は途絶えた。
その一年後、お母さんから直接聞いたことではないが、風の便りに彼の噂が聞こえてきた。
彼は私立の中学校に合格した。学校名は聞かなかったが、寄宿舎もある中学校らしく彼は寄宿舎に入ったということだった。
お母さんの願いはそこにあったのかもしれない。
親子でそれぞれが自分らしく生きるために。
次回更新は7月10日(金)、14時の予定です。
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