母のストレスは限界

小学校生活は事前の話し合いもあったためか、さしたるトラブルもなく順調に滑り出した。

彼が支援学級に入学し、お母さんも看護師の資格を生かして働き始めた。

緊張を強いられる仕事と、手のかかる自閉症の息子の子育てを両立するのはなかなか厳しそうだった。眉間の皺が深くなり、頬がこけてきた。

息子はこだわりの強いタイプで、要求が通らないと大声を出した。お母さんは大声が嫌で、彼の要求に屈してしまうことが多いと眉間の皺をさらに深くして言った。

食べ物のこだわりは厄介だった。彼は偏食というより気に入った食べ物のこだわりが強いのが悩みだった。

寿司屋に連れていくと、そこが気に入り何度も行きたがるので連れていくが、トロとかイクラとかエンガワなど高いネタばかりを食べたがる。それがしばらく続くと次はスパゲティになり、たらこスパゲティばかり食べる。お母さんは騒がれると嫌なので息子の言いなりになっている。

さらに困ることは、隙を見てはお母さんの胸に手を突っ込んでくることだ。

人前ではやらないが、困る行動なので止めさせたい。でもきつく叱ると大声を出すので強く払いのけられない、とお母さんは言う。

「首元まできっちりボタンを留める服を着る、という対策を取ってはどうですか?」と私は言った。

看護師という仕事の重圧、こだわりの強い自閉症児の子育てで、お母さんのストレスは限界に達したようだった。こばとだけではどうにもできないことだった。

ある日、こばとに息子を送ってきた時、私を見るなりお母さんはげっそりした顔で「大鬱(とお母さんは言った)になってしまったのでもう仕事は辞めます」と言った。

こばとに最初に面談に来た時の面影はなくなって、お母さんはひどく疲れた顔になってしまっていた。

お母さんはお祖母さんを呼んで手伝ってもらったり、市の支援センターの相談員さんに来てもらい生活を見直したりしながら、なんとか自分を持ち堪えようと努力していた。