初めて会った時と比べると、彼女の逃げようとする行動はかなり減ってきた。

彼女の遊びに付き合うこともあった。彼女は遊びを考える天才だった。針金ハンガーを長くつなげてカーテンレールに引っ掛けることに夢中になったり、おもちゃではない物を重ねたりすることが好きで、その時の慎重さや集中力は驚くべきものだった。不安定な物のバランスを取るのが絶妙に上手だった。

少し遊ばせ気が済んだかなというところで、優しく手を取って席に誘導して着席させる。

彼女はようやく療育のスタートラインに立った。

こばとでは視覚認知を育てるための最初の課題、色シールを使ったマッチングプリントをクリアすると、次は鉛筆ものになる。

彼女の場合、強制は御法度だ。さりげなくなぞり書き用のプリントをケースから出し、鉛筆を彼女の右手に差し出す。そうすると拒否なく、つられたように鉛筆を受け取って書く体勢になるのだ。

鉛筆を持たされるのではなく、差し出された鉛筆を自ら持つ! ここが肝心。

鉛筆を持てば、さりげなく持ち方を直し、手を包むように介助してなぞり書きを終わらせる。

“自発的”は彼女の気持ちの成長に必要なことなのだ。彼女の場合は強制されない信頼関係を築くことが最優先の課題だった。

時間はかかったが教室に入室して着席し、手を膝に置いて、自分の課題を出してもらうのを待てるようになった。鉛筆、クレヨンも持ち続けることができるようになり、目の前に出された課題もスタッフの介助ありだがこなせるようになった。

我慢をする練習もした。ハンガーを彼女の席の近くに置いておき、課題を最後までやったら、ハンガーで遊んでもいいよ、と言うと集中が続いた。

教室を走り回ることがないではないが、注意の声かけで制止が利くようになった。立ち止まり、振り向くようになった。

「手はお膝に置いて待っていてね」と言えば両手を膝の上に揃えて待てるようにもなった。学習は楽しくもあった。

次回更新は7月5日(日)、14時の予定です。

 

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