【前回の記事を読む】小学校高学年から始めた、1人で歩く練習…母が見えない場所から見守り、電車を乗り継いだ日々――数年後、息子は高校駅伝の選手に…
第二章 熟慮の決断
三つ子の魂
束縛がなにより嫌
就学前にアメリカから帰国した幼児を複数受け入れたが、共通して「逃げ行動」が目立った。
着席を嫌がったり、聞こえない振りで時間を稼いだり、強い拒否の言葉が出たりする。体格の大きい大人に押さえ込まれる経験が、先回りして逃げる習慣につながったのかもしれない。
両親に手をつながれてきた彼女は、面談中は着席しなかったが、二人はなんとしても療育をしてほしいと望んだ。
アメリカから帰国後、すぐに彼女を受け入れてくれる自由保育の幼稚園を探して入園し、住まいもその近くに探して住んでいた。さらに彼女の下にはアメリカで生まれた妹と生まれたばかりの弟もいた。彼女だけに手をかけてはいられない。
家庭環境を考えると長女に落ち着いてもらわなければ、と両親は必死だった。
人は怖くはない、信頼できる存在
療育を引き受けることにしたが、幼児グループ教室ではやっていけそうもない。
彼女の多動を力で制止するのは避けたかった。多動の彼女を小集団で療育するのは厳しいので、一対一の特別枠で受け入れることにした。
しばらくは私が専任で担当した。お母さんが彼女をこばとの入り口まで送ってくると、私は「お預かりします」と言って彼女の手を取り、席までその手を離すことはない。
机の前に誘導しリュックを下ろさせ、中から連絡帳、宿題ノート、課題用ファイルを出すように言う。私は明るく声かけしながらも彼女の衣服のどこかはつかんでいる。
手を離した途端、予想通り彼女は着席しようとせず、教室内を無目的に歩き回ってから教室を出ようとする。その時私は彼女と手をつないで外に出る。
こばとの建物があるあたりの一区画をぐるりと散歩してまた教室に戻る。彼女も何も強制されないので警戒心が薄れ、逃げる気配は少なくなり、楽しそうに歩き回った後、抵抗なく教室に戻ることが多くなった。椅子に導くとすんなり座った。
彼女用の課題を入れている籠からプリントと色シールを取り出す。シールを介助で一緒に剝がし、プリントのマッチする色に誘導する。ほぼ全面的に介助してササッと片付ける。彼女もあれよあれよという間に課題が終わるので拒否する暇はない。
しかし、終わった途端に席から立ち上がって教室内を走り回るのはしばらく続いた。そういう時は制止せずしばらくの間好きに歩き回らせた。
私はその間一度も大声で注意して抑えたり、ダメなどと叱責したりしなかった。人は怖くない、安心できる存在、信頼できる存在と思わせなくてはならない。