【前回の記事を読む】電車に乗ると、乗客がなぜか左右に詰めている…車両の中ほどには5mほどの空白が…そこを見やると、“手錠”をかけられた男が立っていて…
第一景 恒星
映画
ひとつだけ良かったことと言えば、有名映画監督の戦国時代劇。ただの槍隊だったこともあったが、侍大将の息子役に抜擢され、それなりのセリフと殺陣を演じ、主役級の役者達と食事をともにできたことだ。
きっかけ
家庭教師になったきっかけ。それは大学時代のゼミのOB会だった。三つ上の先輩、杉山誠との再会だった。
だいたい、OB会や同窓会といった類のものは、社会で活躍している者達の自慢話の場になることがほとんどだ。俺はOB会に出席するのは初めて。なぜかというと定職に就いているわけでもなく、うだつの上がらない生活を今も続けている恥ずかしさからだった。
あわよくば地下劇団のチケットを売りさばけないかとの淡い期待から、そして演劇の参考になればと思い出席したものの、居心地の悪さは格別だ。
とりわけ仲の良かった同級生の姿はない。想像でしかないが、俺と同じで定職にも就かず、ぶらぶらしているのではないだろうか。場違いな雰囲気のこの空間から一刻も早く抜け出したい。乾杯が終わったら、早々に帰ろう。そう思いながらグラスを持ち、壁のシミになっていた。壁の花ならまだ絵にもなる。しかし俺は壁のシミだ。肩身の狭いものだ。
壁のシミになっているところを知ってか知らずか、誠先輩が俺に声をかけてきた。
「恒星どうした? つまんない顔して」
俺が一年生のとき誠先輩は四年生。四年生は卒論に忙しく、一年生の俺はあまり接点がなかった。朗らかなその顔はご多分に漏れず自慢話の前触れなのだろう。