「テルミちゃん。組合費が溜まってるって、あんたの母さんに言っといてよぉ」

油断していた。彼女たち洗濯女に捕まるほど最悪なことはない。今まさに、渾身の芝居が始まろうとしている。

「残念だけどさあ、このままじゃあ水をあげられないってね」

組合とは名ばかりで、井戸の所有者から金と引き替えに権利を巻き上げたと言っていい。

「母さんが男と呑んだくれてさあ、あんたも大変だねぇ。あたしらも気の毒だと思ってんだよ?」

女たちは顔を見合わせ、示し合わせたように頷いた。

「娘を高校にやらずに働かせてさぁ、可哀相に」

次にケタケタという身震いする笑いを漏らした。可哀相? これは飾り言葉だろうか。中年女はどうして意味もなく笑うのだろう。

でも、その意図は分かっている。息を吐くのと同じように惨めな言葉を並べたて、哀れな羊を餌に優越感に浸りたいだけなのだ。常に自分を底上げすることに必死で、不幸の種を探しまわっている。

「苦じゃないので。組合費はあたしが払います」

洗濯女たちはたちまち怯んだ。反論というものに対して滅法弱い生き物らしい。

とにかく優越感を奪うこと。これで、復讐は完了した。

そこに、突如として――まさに虚をつかれるほど――純白の〈鶴〉が舞い降りたように見えた。

あたしの目がおかしくなったのだろうか。違う。この腐り果てた泥の地上に、鶴のように美しい姿をした人間が前触れもなく迷い込んできたのだ。