マリコに捧げる

一 ごみの城

汚水の雨が降る闇の路地裏。それは、あたしにとって憎悪の対象でしかない。

ひたひたと粘っこい靴底が飛沫を生んだ。そんな地を這う触手は男たちの惨めな懇願を思い起こさせ、蜘蛛の巣状の抜け道の中でもたちが悪かった。

「じじい」

あたしは眉間に詰まった毒物を無理に押し出し、あらゆる怨念をぶつけた。

「じじい。じじい。じじい」

鉄の味が舌を刺激するたび、あの咆哮が耳の蝸牛で暴れ回った。

――このメス豚がぁ!

愚にもつかないちっぽけな殺意。

――小娘が誘惑なんかしやがって。売女、淫売、くそ汚いメスがぁ!

辺りは酸い腐敗臭にまみれ、上着の化学繊維一本にまで貪欲に染みついていく。

終焉をにおわせる黄ばんだ蛍光灯から澱んだ光が漏れていた。そこに八の字を描きながら集う蛾の群れ。あのせせこましい羽音は浅ましさの象徴、本能に抗えない生命の騒音だ。

「うざい」

酩酊したヒキガエルが前途を阻んだ。すれ違うことすら困難なこの道で、節操のないごみ。その口から何が飛び出すかと、試しに腹を踏んでやった。

からっぽだった。ごみはごみ以上になれない。蝕まれたこの地に巣くう、取るに足らない生き物だった。

彼方から豚の悲鳴に似た軋みが伝わった。天井にのたくる錆びた排水管が、体内を巡る排泄物を当然のごとく海に垂れ流したのだ。