三 歯車

「テルミ!」

ガンガンガン。

「テルミー!」

ガンガンガンガン。

むき出しの壁に伝わる安っぽい金切り声。スチール製の扉を打ち、あたしが苛立つのを承知で向かってくるその根性。あの計算され尽くした化け物は今に恥ずかしげもなく吠えるだろう。自分が母親だと。

「開けろぉ!」

グワーングワーン。

そこに蹴りが加わった。あたしに蹴り癖があるのはあの女の血だと思うと発狂する。

「自分で開ければ!」

煙草をもみ消し、こめかみに浮き出た血管を両手で塞いだ。

「鍵をなくしちゃってさあ。早く開けろぉ!」

きっと喉から砂嵐を吐き出しているのだろう。笑い声すら首を絞められているのではないかと錯覚する。そのうえ一種の危機感を抱いた。明らかに聞き慣れない声音が混ざっていたのだ。きっと錆びついたザルに引っかかった男を懲りもせず、連れ帰ったに違いない。

あたしは無言で忍び寄り、扉を飾る唐草模様の通気口から、乏しい光に照らされた廊下を覗いた。

それは見るもおぞましい光景だった。崩れ折れた母の脇腹に腕を回している千鳥足の男。濁った白目を血走らせ、だらしない笑みを浮かべて夢想している。それはまさに、アルコールの黴(かび)を撒き散らす死人。

扉に凭れた二人は解錠と共に雪崩れ込んできた。玄関に倒れた母のスカートは腿まで捲れ、肉割れた脂肪の線が露わになった。

「ちょっと、しっかりしてよ!」

すると、男の目がいきなりひっくり返り、燦然と輝いた。あたしの二の腕をくるくると舐め回しながら、淫獣のような涎を垂らし始める。

「そうかあ……これがテルミちゃんかあ……」

だらしなく身を起こそうとする男に、あの女は「ねえ」と、鼻にかかった無残な声で縋(すが)りついた。

「おい、勘弁してくれよぉ」

ぐずる手をさも困った風に剥がし、あたしに舌舐めずりをしてみせる男。一方で、女を誇示しては若さに嫉妬する母。