なんなの……こいつら。
見事な茶番だった。正視は地獄に近く、駄々っ子のような母を無理に引き剥がし、達磨のごとく転がした。
「それが母親にすることがあ」
仰向けで四肢をばたつかせ、恥じらいもなく喚き散らす。
「冷たいい。あたひは不幸らあ。はんたを産む前は幸せらったのにぃ」
出た。これが決め台詞。これを言いたいが為に遠回しなパターンを飽きもせずに繰り返すのだ。
「つぐなえぇ。腹を痛めて産んでやったのに。永遠につぐなって生きろ!」
この女の望みはあたしがボロ雑巾のように傷つくこと。一粒でも涙を零(こぼ)せばきっと満足なのだろう。でも、あたしは抗い続ける。これからもずっと。
「好きであんたの子供になったわけじゃない……」
――売女!
不意に鼓膜の奥で何かが鳴った。未だ昨夜の狂乱の欠片が暴れているのだと思った。しかし、そうじゃないと気づいた。これは〈あの日〉から染みついて離れないこの女の憎悪。
鼾(いびき)が始まった。役目を終えた気になったのだろう。女は暴れ疲れた四肢を広げ、大の字になって眠った。
唇の皺に残った赤い口紅。年の割に老けた肌。こうやって無防備に鼻を鳴らし、自分のことも、あたしのことすら忘れ去るのだろう。いつものように。
「テルミちゃんも大変だねえ。あらぁ、どうしちゃったの、この痣。綺麗な顔が台無しだよ」
つけ入る隙あれば忍び寄る指先。この場で、この空気感で、どの口があたしに汚れた言葉を吐くのだろう。
「痛いの、痛いの、飛んでい……」
「出て行け!」
男が尻もちをつくまで力の限り突き飛ばした。両脚を天に向けた姿が意外に滑稽で笑いを誘う。
「なんだ、その態度はよお! 誰がこいつを連れて帰ってやったと思ってんだ。礼ぐらいしろお!」
「出て行け!」
更に尻を蹴飛ばせば、あっけなく逃げ帰った。女のように情けない悲鳴を上げ、這うようにして。
まるで喜劇だ。何もかもが馬鹿みたい。たまにはまともな大人に巡り会いたいと願うことが、そんなに高望みだろうか。