「はい。だから私もいつまでもウジウジしてられないなって。そうでないと私の顔だけでも守ってくれた祖父が浮かばれませんからね」

課長には秘密だが葵は今日はじめて若菜と対峙した時、代理で別の人が来たのかと勘違いした。やっぱり会いたくないと直前になって断られる可能性も考慮していたので仕方ないと諦めたくらいだ。

だが目の前に現れたのは紛れもなく黒沼若菜本人だった。どこをどう探しても顔に火傷の跡など見つけられず、写真入りの学生証を見せられてもまだ半信半疑で、つい先ほど手と体の火傷痕を見せられてようやく若菜本人だと確信を得た。

なぜ顔だけは綺麗なままなのか。それには彼女の祖父が関わっている。

「あの日、祖父は死ぬはずじゃなかったんです。真冬の夜だと言うのに散歩に行ってくると言って出掛けていきましたから」

「どうしてわざわざそんな時期に散歩へ行ったんでしょう。しかも夜なんて……」

「うーん、それは本人に訊いてみないと……。ひょっとしたら何か虫の知らせでもあったのかもしれませんね」

「虫の知らせ、ですか」

「えぇ。なにせ太平洋戦争を生き延びて帰ってきた人ですからね。そういった霊感的なものがあったのかもしれません」

「霊感、ですか」

「それでも心配なものは心配でしたから帰ってくるまで起きてようと勉強しながら待ってたんです。でもいつのまにか眠っちゃってたみたいです。換気をせずに石油ストーブを点けっぱなしにした部屋で、ね」

若菜はあの日、頭がボーッとすると訴えていた。良三は勉強のしすぎだからほどほどにして寝ろと言ったのだが、医者を目指し、期末テストが近い若菜が聞く耳をもたないのも仕方のないことだった。