意外な治療処置

私が宿舎を離れている間、宿舎に残って子どもに付き添うスタッフには十分に気を配るように言い残して、彼と一緒にタクシーに乗り込んだ。

タクシーは二十分ほどで外科病院に着いた。木々に囲まれている病院のあたりは暗かったが、待合室だけに明かりがともっていた。

彼も何やら緊迫感を察知してか、はたまたあまり痛みを感じていないのか分からなかったが、泣きもせず声も出さず大人しく手を握られていた。

一方の私は彼の頭に損傷をきたしていないか、不安と緊張で胸が締め付けられる思いで時間が長く感じられた。

当直医に診察室に呼ばれた。私は彼が重度の自閉症であるということと、怪我の経緯を説明した。

医師は彼が自閉症であることは意に介さず、彼の盆の窪を診てから私に待合室で待つように言った。

私は待合室で彼の家に電話して、彼が頭に怪我をしたことを謝罪し、今外科病院に来ていることを話した。

罵声を覚悟していたが、お父さんは「すぐに宿舎に迎えに行く」と言って電話を切った。

診察室からは泣き声も物音も聞こえてこない。

どのくらい時間がたったか分からなかったが、医師が彼を連れて出てきた。見れば彼は頭に包帯もしていない。

医師は彼の後頭部を示して、傷口は縫合してあると言った。

傷口周りの伸びた髪の毛を剃った形跡もなく、そのままの状態でホチキスのような「スキンステープラー」という医療用器具で閉じられていた。

治療費は後日精算に来るように言われ、薬はなかった。

医師に礼を言い、来た時と同じタクシーを呼び乗り込んだ。私はただただ驚いた。医師は彼が重度の自閉症と分かってか、髪の毛を剃って騒ぎを起こすような余計な処置はせず、スキンステープラーで留めただけにしたのだろうか?

彼もけろっとした顔でどこかが痛そうな様子は全くなかった。

タクシーで宿舎に着くと、彼のお父さんが既に迎えに来ていた。

私が外科で受けた処置を話すと、お父さんは精密検査をしないなんて、と激怒した。お父さんの怒りの前に、私はただ頭を下げるのみだった。

お父さんは息子を連れ帰って大きな病院で診てもらうと言った。こばとにとって初めての大きな事故だった。