最後に示す如く究極の訓戒は、朝廷を牛耳る地位と権力を掌握しても、藤原氏が天皇に即位しない約束と考える。

天皇を権力の籠に担ぎ上げ、藤原氏が実権を恣意的に振るう政体が摂関政治であり、政治的智恵が具現化した。天皇家と藤原家が永劫共栄し、国家が繁栄するために一族が必修すべき戒めだったに違いない。

彼の遺戒は、これまでの不安定な王権制度への疑義並びに強大な中国歴代王朝の脆弱性を肝に銘じた厳しい省察による。唐(618~907)は、歴代王朝で最も繁栄し、国威は周辺に広がった古代の大帝国であった。

同時に国家成立期にあった日本に政治、経済、文化、宗教等で最大の影響を与えた。

隆盛期の唐で中国史上類を見ない緊切な事態が起きた。

高宗(3代)の妃であった則天武后が周朝(690~705)を建国し、史上唯一の女帝に即位した。いわゆる武周革命である。

この頃、朝廷の最高実力者として国政を仕切っていた不比等にとっては、驚天動地の王朝交代に驚愕の色を隠せなかった。見習うべき先進国の中国で皇帝が廃帝となり、皇后が新国家を建設し、自らが皇帝についてしまう政治風土に強い不信を抱いた。

衝撃的政変であり、中国の王権交代と同じことが、日本では決して起こさない仕組みが喫緊に必要と考えたに違いない。

模範とした唐の律令ではなく、武力で支配者となった皇帝と宮廷の統治権力に於ける脆弱性を見抜き、政治権力に於ける日本固有の天皇制、皇室、朝廷等の位置付けを見直した。

これは天皇家と藤原氏との関係に直結し、先の七戒に収斂するきっかけになったと推測する。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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