ポケットに突っ込んだ手は冷えきっていた。夜の風が刺すように痛い。それでも吉田は家にいることが耐えられなかった。
ポケットの中で携帯が震え、着信音が執拗に鳴る。取引先――いや、違う。今の吉田にとっては、ただの追い立てる音にすぎなかった。画面を見ることもなく、ため息と共に手を押し込む。行くあてもないまま、足は勝手に動いていた。
ふとバス停に目を向けるとバスが停まっていた。時刻表を確認するでもなく、ただ目の前に停まったバスへと乗り込む。どこへ向かうかも考えず、ただ流されるままに。
窓の外の景色は流れ、やがて見覚えのある繁華街の灯りが見えてきた。人々の楽しげな顔、街を照らすネオンの光、そのどれもが、自分とは無関係な世界のもののように感じる。
流されるままバスを降り、流されるまま繁華街へと吸い込まれていった。
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