【前回の記事を読む】彼女の母と祖母が僕の前で言い争う……この家族をめちゃくちゃにしたのは、僕なんだ
第六章
由紀子さんの冷たい言葉は、まっすぐ僕の胸に突き刺さった。謝罪すら必要とされない存在は、僕が生きていることすら否定しているように感じる。
でも、どうしてか。驚きはしたが、そんなに落ち込んではいない自分がいた。こうなることを無意識のうちに想像していたのだろうか。
それよりも、僕はずっと持っていた疑問の答えが知りたくなった。本当に最初から思っていた、なんのまどろっこしさもない単純な質問だ。今なら訊けるかもしれない。少しずつ冷静になり始めている由紀子さんに、僕は自分でも驚くほど落ち着いた口調で訊ねた。
「遥香さんは、僕に会いたくないんでしょうか」
僕が問うのとほとんど同時に、由紀子さんは大きく息を吸って、目を閉じた。なにか考え事をしているような、間違いがないように言葉を紡ごうとしているような、そんな間がこの場を包み込んだ。
僕も遥香の祖母も、由紀子さんの口が開くのを大人しく待つ。
やがて、彼女はゆっくりと目を開けると、
「わからない」
それだけを口にした。
「もし、遥香さんが少しでも僕に会いたいと思ってくれたら、会ってもいいと思ってくれるのなら、また来ます。どうか話していただけませんか? 皆さんに迷惑はかけません。よろしくお願いします」
深々と頭を下げる。謝罪が無意味だとしても、僕にできるのは謝罪と懇願だけだ。これで遥香から会いたいと言われなかったら、もう諦めよう。
遥香にはもう新しい人がいるのかもしれない。僕よりも遥香の身体を労って大切にできる人が。遥香が幸せならそれでいい。それで十分幸せだ。遥香に捉われず、僕も前を向いて生きていかなきゃならない。
現実は意外にも単純であっけなかったりする。僕にとってはつい最近のことでも、遥香にとってはもう三年も前のことなのかもしれない。
そうそうドラマティックなことは起きない。それが現実というものだ。僕が生きているのは、ドラマではなく現実なのだ。それなら残酷な事実も受け止めて進んでいかなければならない。
身支度を整えて外に出る。遥香の祖母は、「またおいで」と言ったが、由紀子さんはなにも言わなかった。ただ、僕を寂しそうに見ていた。不思議と怒りや憎しみの感情は見えない。
また来れるだろうか。僕がまたここに来るとしたら、それは遥香が僕に会いたいと思ってくれたときだ。遥香と話したい。できることならまた会いたい。
「もう終わったの?」
小一時間程度しか経っていないのに、明里さんは、いくつもの袋をぶら下げて、大通りから歩いてきた。
「遥香、いなかったから」
「そういうことか。また会えなかったんだね」
駅まで並んで歩く。昼下がりを迎え涼しい風が吹いていたので、タクシーを使わずに歩くことにした。その道中、僕は今日起きたことを包み隠さず明里さんに話した。
「次は遥香さんに会えるといいね」
その次があるのかどうかもわからないが、人から次があるように言われるとなぜかほっとする。この件に関して、彼女は無関係でなにも知らないというのに。