【前回の記事を読む】「おじさん、お仕事行かないの?」いま侮辱したか俺を? 子ども相手に怒りが抑えきれない。無意識に、俺は少女の肩を突き飛ばし……

沈む陽と沈む思考

ゴンッ――!!

鈍い音が響いた。

少女の後頭部が、公園の水道の縁に激しく打ちつけられる。吉田は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。じわりと広がる赤い液体が石畳に滲んでいく、濃く、鮮やかな赤。少女は動かない。白い肌が、紅に染まっていく。

「……っ!」

心臓が跳ね上がる。――やってしまった。吉田の手は小刻みに震えていた。しかし、地面に倒れた少女は、頭から血を流しながらも、まだ目を開いていた。潤んだ瞳がこちらを見つめている。

「…ぅ……」

声にならない声が、微かに漏れる。まだ意識がある。安堵とも、恐怖ともつかない感情が吉田の胸を締めつけた。だが、すぐに別の思いが押し寄せてくる。

(この子が生きている限り、すべて終わりだ。血まみれの少女がここで助かれば、警察が動き出す。証言されたら、自分は終わる。工場はどうなる? 家族は? すべてが崩れる)

「……っ!」

ダメだ、考えるな。考える暇があれば、手を動かせ。吉田は必死に呼吸を整えようとした。だが、心臓が異常な速さで脈打ち、頭がまともに回らない。

(今なら、まだ間に合う)

そう思った瞬間、吉田の手は少女の細い首に伸びていた。

「ごめん、ごめん……っ」

掠(かす)れた声で何度も呟きながら、その手に力を込めた。少女の目が大きく見開かれる。

小さな手が、吉田の腕を掴む。必死に抵抗しているのがわかる。

「っ……はぁ……はぁ……っ」

そのうち抵抗が弱まり、やがて完全に力が抜けた。

静寂――

耳鳴りだけが響く中、吉田は荒い息をつきながら手を離した。もう何も聞こえない。

終わった。終わらせてしまったのはまぎれもなく吉田だった。全身が震える。吐き気が込み上げる。どうする? どうしたらいい? 何をすればいい?

(いや、もう考えるな)

吉田は少女を一瞥した後、一気に駆け出した。血の匂いが背後でゆっくりと広がっていくのを感じながら。夜の帳(とばり)が下り始めた公園に、吉田の足音だけが響き渡っていた。