「有り難くいただく」

「へい」

「秀次殿、今後ともよしなに頼む」

「へい」

それが、秀次と石動の最後の会話となった。

「おやまあ。お神酒でございますか」

「うむ」

石動は酒に強い。

飲んでも乱れないし、二日酔いをした事もない。なければないでもかまわない。

毎日二合の晩酌、その習慣もあの事件で途絶え、そして旅の中で再び始まった。伊勢神宮を参った後の旅の宿で、膳に徳利が一本ついていた。

「父上。精進落としと申します」

五月がそう言って酒を進めてきた。

父が酒を口にしなくなったのは家族への申し訳なさから、そう思った五月が頼んだ一本だった。

「あー、うむ」

久し振りの酒は、やはりうまかった。

そういえばあの日、家に帰ってから「酒は要らぬ」そう言った。上意の使者と会う時に酒気を帯びていては不敬となる。そう思ったからなのだが、「今日(きょう)は」を言い忘れた。

 

👉『花房藩釣り役 天下太平 天気晴朗なれど波高し』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】目を閉じると、柔らかくて温かいキス…膝が折れそうになった私を彼が支えてくれて「ずっと、こうしたかった」と囁かれ…

【注目記事】彼が舌を滑りこませる直前に離れた。もの足りなさそうな嘆息を漏らす彼。そして今度は私のほうから唇を下ろしていった…

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp