【前回の記事を読む】外でおいしいものを食べた時、母はその味を再現しようとする。だが決まっていつも、黒い何かを作る母に太平は…
第一章 鯛のしゃくり釣り
三
「とてもおいしかったです」
しっかりと一杯を飲み干して、そう言ったところで意識が消えた。
百合の体が「くたん」と崩れて、落ちた湯呑み茶碗が転がっていく。
「あ、わ、わ」
太平には、何が起きたかも、どうしていいかも分からない。
「太平! 布団に運べ! わし、先生を呼んでくる」
庭先からお粂ばあさんが怒鳴っていた。
「ご無理はなさらんように」
そう言い置いて帰る医者と一緒に、お粂ばあさんも出ていった。
「竹庵、あんだけの事で見料取る気か」
「見料って、わし易者やないんやから」
どうやら診察代をねぎってくれているようだ。二人の声が遠ざかっていく。
「ごめんなさい、太平さん。少しはしゃぎ過ぎたようです」
太平と話したくて、台所に行って楽しく話した。どうやら、自分の元気の限界はその辺りだったらしい。
「あ、お布団はこのままで。もう少し庭を見ていたいんです」
布団を戻そうとする太平を百合が止めた。
「あっ、やぶからしです」
庭に目を向けた太平が声を上げる。
「やぶからしをご存知なんですか?」
「はい、やぶからしとへくそかずらは良く知ってます。あ、犬のふぐりもです」