【前回記事を読む】家のトイレがわからない母のために、家中のドアに紙を貼った。『トイレ』、『台所』、『お母さんの部屋』
第十二章 冬の夜
その年の冬は、例年より寒かった。
母は寒さに弱くなったのか、こたつから離れようとしなくなった。
「お母さん、少しは動いたほうがいいよ」
「だって、寒いんだもの」
「じゃあ、こたつの中で足踏み運動しよう」
私は母と一緒に、こたつに入ったまま足を動かす運動をした。テレビの体操番組を見ながら、二人で手を動かしたり、首を回したりもした。
「疲れたわ」
「少しだけでも動くと違うよ。血行が良くなるから」
「そうね……」
母は素直に従ってくれた。
クリスマスイブの夜、私は小さなケーキを買ってきた。
「お母さん、今日はクリスマスイブだよ」
「クリスマス……」
母は首を傾げた。
「ほら、サンタさんが来る日」
「ああ、そうね。恵美が小さい頃、毎年プレゼントを楽しみにしてたわね」
「覚えてるの?」
「ええ。クリスマスの朝、枕元にプレゼントを見つけると、大喜びで私たちのところに来たわ。『サンタさん来た!』って」
母は懐かしそうに笑った。
「お母さん、サンタさんの正体、いつ気づいたの?」
「正体?」
「サンタさんがお父さんとお母さんだったこと」
母は少し考えて、首を横に振った。
「わからないわ……いつだったかしら……」
母の記憶は、また曖昧になっていた。でも、私は気にしなかった。
「まあ、いいよ。今日はケーキを食べよう」
私はケーキの箱を開けた。小さなホールケーキ。苺がたくさん乗っていて、クリームは母の好きな生クリームだ。
「まあ、きれいなケーキね」
母は目を輝かせた。
「一緒に食べよう。メリークリスマス、お母さん」
「メリークリスマス、恵美」
私たちはケーキを分け合って食べた。甘いクリームと酸っぱい苺が、口の中で溶け合った。
「おいしいわ」
「よかった」