テレビでは、クリスマスソングが流れていた。きらびやかなイルミネーション、笑顔の人々、幸せそうな家族。
「恵美」
「なに?」
「幸せね」
母の言葉に、私は顔を上げた。
「こうしてケーキを食べて、あなたと一緒にいて。とても幸せ」
私は涙をこらえながら、笑った。
「私も幸せだよ、お母さん」
「来年も、一緒にケーキを食べようね」
「うん。約束」
私たちは小指を絡めて、指切りをした。子供の頃、よくやった仕草。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」
二人で声を合わせて言った。そして、笑い合った。
窓の外では、雪がちらちらと舞い始めていた。ホワイトクリスマス。静かで、穏やかな夜だった。
大晦日の夜、私たちは紅白歌合戦を見ながら年越しそばを食べた。
母は以前のように歌手の名前を覚えていなかったが、知っている曲が流れると嬉しそうに口ずさんでいた。
「この歌、知ってる。昔よく聴いたわ」
「何ていう曲?」
「題名は……思い出せないけど……でも、メロディーは覚えてる」
母は歌詞もあやふやなまま、でも楽しそうに歌っていた。
「お母さん、歌上手だね」
「そう? 若い頃はカラオケが好きだったの」
「知ってるよ。お父さんとよく行ってたって言ってたもんね」
「そうだったかしら……」
母は遠い目をした。
「お父さんはね、音痴だったのよ。でも、楽しそうに歌うの。恥ずかしかったけど、でも、その姿が好きだった」
私は父の歌声を思い出そうとした。でも、はっきりとは思い出せなかった。5年という歳月は、私の記憶からも父の声を薄れさせていた。
「お父さんの声、録音しておけばよかったな」
「そうね……」
母も寂しそうに言った。
「でも、恵美。記憶は薄れても、気持ちは残るわ。お父さんを好きだった気持ち、一緒にいて幸せだった気持ち。それは今でも、ここにあるの」
母は胸に手を当てた。
「だから、声を覚えていなくても、お父さんは私の中に生きてるのよ」
私は母の言葉を、心に刻んだ。
除夜の鐘が鳴り始めた。
テレビから聞こえてくる鐘の音を、私たちは静かに聞いていた。
「今年も終わりね」
「うん。いろいろあった一年だったね」
「恵美にはたくさん迷惑をかけたわね」
「迷惑なんかじゃないよ」
「ありがとう。あなたがいてくれて、本当によかった」
私は母の隣に座り、肩を寄せ合った。
「来年も、よろしくね、お母さん」
「こちらこそ、よろしくね」
午前0時、新しい年が明けた。
「あけましておめでとう、お母さん」
「あけましておめでとう、恵美」
私たちは抱き合った。母の体は小さくて、でも温かかった。
この温もりを、いつまでも感じていたい。そう願いながら、私は母を強く抱きしめた。