【前回の記事を読む】寒くて眠れないと彼に伝えたら「一緒に寝てあげる」と言って、背後から身体に両腕を回して擦り寄ってきて…

壺を抱いたネコニャ

確かに母はそう言った。一時帰国したある日、「ここは私の楽しみの部屋なの」って、母は言ったのだ。だから私は、市松人形が好きな彼女が、私から見れば不気味にしか見えない日本人形を、大量に置いているものだと思い込んでいた。

市松人形の眼差しは、まるで生きているかのようで怖かったから、私は母の道楽で集めた物を置いてあるはずの部屋に、入ろうとは思わなかった。

両親はいまだ失踪扱いのままだ。あれからすでに七年が過ぎ、家庭裁判所に失踪宣告を提出できるだけの年数が経ってしまった。そろそろ申請をしようとは思っていたが、それを提出して認められるまでは、東の部屋を開ける気はなかった。けれど、家中の探検をはじめたネコニャが、そこを開けてもよいかと言ってきた。

「不気味な市松人形が、戸口を睨んでずらっと立っているのよ、きっと」

私はそれを想像しただけで寒気がした。

「お母さんが、そう言ったの?」

ネコニャはまったく信じていない様子だった。

「言いはしなかったけれど、彼女の楽しみといえば市松人形よ、絶対に!」

私は断固として譲らなかった。

「他に楽しみができてさ、そんな物じゃないかも知れないよ。それに、例えば市松人形が部屋の主になっていると考えたら、怖くない?」

ネコニャは悪戯っぽい目でにやりと笑って、私の目を覗き込んだ。

「こ、怖いわよ。だから開けないんじゃない」

私は思わず一歩後退した。

「あなたが開けなくても、夜な夜な勝手に歩いていたりして」