壺を抱いたネコニャ
ひゃっけんセンセ。 ひゃっけんセンセ。
あなたのノラが 突然消えたように
私のネコニャが いなくなっちゃいました。
あなたのように いろんなところを捜しています。
いつ帰ってきてもいいように
準備万端整えています。
ひゃっけんセンセ。 ひゃっけんセンセ。
でも どこにも広告は出していません。
張り紙もしていません。
誰かの前で 私は泣くことをしません。
ネコニャがいなくたって
ぜんぜん平気って顔をしています。
ひゃっけんセンセ。 ひゃっけんセンセ。
あなたのように 思いっきりうろたえて
マスコミを巻き込んで
隣り近所の住人を引き込んで
日本中の人に心配させて
ネコニャを捜したいけれど
私にはできません。
でもね ひゃっけんセンセ。
あなたが 「ノラや」って
何百万回もつぶやいたように
私も 「ネコニャ」って
何百万回もつぶやいています。
ひゃっけんセンセ。 ひゃっけんセンセ。
それに耐えられなくなったから
私は私の中へ 沈んでいきます。
「永遠のさよならなんてさ、けっこう簡単にできるんだ」
カウンセリングを受けていた私は、カウンセラーに向かってつぶやいた。
「え?」
カウンセラーは確認するようにささやいた。
「って、私が『ネコニャ』と呼んでいる少年が言ったの」
「永遠のさよなら?」
カウンセラーの声が右耳から入ってきた。
「そう。彼は言ったあと立ち上がると、財布をジーンズの尻ポケットに突っ込んで、部屋のドアへ向かったの」
私の脳裏には、履き古したジーンズに包まれたネコニャのお尻が見えていた。
カウンセリングにはイメージ療法というものがある。