【前回の記事を読む】失踪した母は市松人形が趣味だった。7年間放置していた"母の楽しみの部屋"のドアを開けると、そこには…

壺を抱いたネコニャ

「どうしたの?」

「僕、机って持っていなかったから」

私は彼に近づいた。

「こんなにほこりが溜まっている」

ネコニャは机に指を這わせた。

「本当ね。七年以上放置しているんだもの。仕方がないわ」

私は部屋を見回して、これをどうしたものかと思案した。

「この部屋、どうしよう。これって、絶対に誰かのために用意された部屋よね」

「うん。そうだね」

ネコニャはぐるりと部屋を見渡した。

「それも男の子用だわ。いったい誰の部屋だったんだろう。下宿人でも置いていたのかしら? ううん、そんなはずはないわ。この家具の造りは、下宿人に貸すには上等すぎるわ」

私はつぶやいた。

「こんな風になっていなかったら、ネコニャの部屋にしてあげようと思っていたんだけれど。困ったわ」

私はベッドに座った。彼も横に座った。

「両親はね、七年前にいなくなってしまったの」

「どうして?」

ネコニャは私の目を覗き込んだ。

「さぁ? その頃私はドイツにいたから解らないわ」

私は彼の視線から顔をそらせた。

「そろそろ失踪宣告をしようと思っているの。両親の死亡が法律で認められたら、私は天涯孤独のお気楽人間だわ」

私は天井を見上げて笑った。

生きているのか死んでいるのかさえ解らない両親の存在は、身体に絡み付いた紐の先についている小さなおもりのようなものだった。ちょっと気にすると重いが、忘れているときは、ほんの少し不自由な感じがするだけのものだったが、どちらにしろ、身体に絡みついたうっとうしいものではあった。