私は顔をしかめた。

「何に?」

「すべてを終わりにしてしまいたい。こんなに苦しいのなら、いっそ忘れてしまった方が
楽だわ」

「忘れることはできないのよ。でもね、目をそらすことはしていいのよ」

「どういうこと?」

「見たくないから、見ないでおくの。今、結論を出さなくてもいいから、ちょっと横に置いておくの」

「できるんですか?」

「ええ。でもその前に、ちょっと休憩しましょう。イメージ世界を閉められるかしら」

「大丈夫です」

私は身体を小石の陰に隠れられるほど小さくした。

「大丈夫。ここでゆっくりと休むわ」

石にもたれかかった私から、現実へ帰る私が離れた。

私のイメージ世界は劇場の舞台が出入口になっていた。私は舞台の上に立ち、イメージ世界を振り返り、一枚一枚カーテンが丁寧に閉められていくのを確認していた。やがて数枚のカーテンが完全にイメージ世界を隠すと、私は舞台から客席へ飛び降りた。

現実世界の私が中央付近の客席に座って、イメージ世界から帰ってきた私を待っていた。私はその私の中へ入ると、終演し暗くなった舞台をもう一度眺めた。

「ああ」

意味のないため息をつくと立ち上り、私は暗い劇場を後にして、光が溢れているホールへと出ていった。そこでポップコーンを買うのがいつもの習慣だった。それを持って劇場ビルの外に出て、青い空を見上げ、自動車が走る音を耳にするイメージを最後に、やっと私はイメージ世界から完全に出てきて、目を開けることができるのだった。

「大丈夫?」

目を開けた私を、カウンセラーが見つめていた。

「はい」

大きなあくびをし、軽い眩暈の中で首を動かした。

「一時間後にまた来て」

カウンセラーは部屋のカーテンを開けながら言った。

次回更新は4月27日(月)、14時の予定です。

 

👉『壺を抱いたネコニャ』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】店を畳むという噂に足を運ぶと、「抱いて」と柔らかい体が絡んできて…

【注目記事】「今日、主人は出張で帰ってこないの」ホテルの入口で一瞬ためらったけれど、夫だって浮気をしているのだから私だって…