【前回の記事を読む】彼の胸に頬を押しつけたい。抱きしめたい。背中に指を這わせたい。唇で胸に触れてみたい。その衝動を隠し続けると…
壺を抱いたネコニャ
トーヤはいつも猫のように、腹這いになってソファーに寝そべっていた。時折身体を起こして四つん這いになると、透けたシャツを通して野良猫のようにガリガリに痩せているのが解った。その細さがたまらなく可愛くて、抱きしめたくなった。でも私は我慢した。
自分から手を出すことは、絶対にしなかった。その感情を抑えるために、私はいつも無表情を演じていた。
けれど食事だけはちゃんととらせた。ろくなものを食べていないのではないかと心配したからだ。
「僕の分?」
食事を出しはじめた頃、トーヤは卓上に並べられた料理を眺めて、驚いた表情をしていた。
「そうよ。独り分ってけっこう作り難(にく)いのよ。トーヤが来てくれると私も助かるの」
私は煮物や焼魚、味噌汁を並べた。
「おいしい! お母さんの味とおんなじだ」
トーヤは嬉しそうに叫んだ。
「そう? たまには帰るの?」
私は何げなく聞いたが、すぐさま後悔した。年を偽って働いている彼に、複雑な事情がないわけはない。
「もういないから」
トーヤはぽつんとつぶやいた。
「そう。ごめんね、立ち入ったことを聞いて。さぁ、遠慮しないでどんどん食べてちょうだい」
私は場の雰囲気を変えるように、努めて明るい声で料理を勧めた。
育ち盛りの少年の食べっぷりには、惚れぼれするものがあった。あの細い胴体のどこにこれほど大量の食べ物が入るのかと、いつも不思議だった。
「僕はおなかの中に、ブラック・ホールを持っているんだ」
すでに二杯目のご飯を食べ終えたトーヤの言い分に、彼の胃袋の辺りを眺めながら、まんざらうそではないかも知れないと思った。
「そんなわけないでしょ」
真面目な顔で聞いていた私を見て、彼は呆れたように笑った。