そんなトーヤと私が一緒に暮らしはじめるようになったきっかけは、雨漏りだった。
パブの独身寮はけっこうなぼろ屋で、たまたま彼の部屋の屋根が傷み、雨漏りがひどくなった。それが直るまで他の従業員の部屋に居候するようにとオーナーに言われたそうだが、どいつもこいつも、女は連れ込むは夜更かしはするはで、他人と一緒に住めるほどの配慮は、持ち合わせていなかったらしい。
「僕、あのソファーがいい」
トーヤは店のグランドピアノの足に寄り掛かり、私を見上げて言った。
その眼差しが、「僕を拾って」と語っている気がして、私はいやとは言えずに拾ってしまった。ノラは水瓶に飛び込んだことが百閒先生との縁の始まりだったそうだから、ずぶぬれの姿は、人の心の隙間に入り込む、猫のとっておきの手なのかも知れない。
トーヤはピアノ室を住処にした。もともと日がな一日我が家で過ごしていた彼が、夜もいるようになっただけだから、さして違和感はなかった。
「トーヤって猫みたいね。いてもじゃまにならないし、自分の世話は自分でするし。好き勝手に生きているのも、猫みたいよ」
私はピアノを弾きながら言った。
「にゃおん」
トーヤは本から目を離さず、右手で拳を握り耳に当てて招き猫の仕草をした。私が彼を『ネコニャ』と呼ぶようになったのはそれからだった。
「以降、ずっと一緒に暮らしていたのね?」
カウンセラーが静かに注意深く喋った。
近づいてきたからだ。私の悲鳴の元が、もうすぐやって来る。けれど今の私ならば、それが来ても大丈夫だろう。イメージ世界に入っている間だったら傍観者の立場で喋れるはずだ。