「情けないわ」
「トーヤが悲しそうに言っていたわよ」
「え?」
「上条さんは僕が嫌いなのかなぁって。すぐに逃げ出すし、話し掛けても答えてくれないって。嫌いなの?」
「いや、そんなつもりはないんだけれど」
また汗が吹き出してきた。
「とにかく、そんなに怖がらなくったって平気よ」
みちるは更衣室を出ていきながら、もう一度声を掛けた。
「ひいちゃんが練習しているとき、トーヤは休憩時間でしょう? 『そばでピアノを聴いていたいなぁ』って言っていたわよ。あの子、他の女の子には興味を示さないけれど、ひいちゃんには興味あるようよ」
「うそ!?」
こんな年上に?と思った。
「あなたか、ピアノかは知らないわよ」
なるほど。ピアノということなら解る。そういう趣味があってもおかしくはない。生演奏を好む人がいるから、私のような仕事もあるのだから。
着替えを終え、指慣らしのためにピアノが置いてある場所へ向かう途中、壁に寄り掛かって本を読んでいたトーヤが、私に気がついて本から視線を離した。
「あ、あの。別にあなたが嫌いなわけじゃなくて、その、私は人見知りが激しくて、あの。ああ、どう説明したらいいのかしら」
胸の谷間を汗がツーっと流れていった。背骨のところにも流れ落ち、ショーツまで辿り着いているのが解った。
「ああ、もう!」
次回更新は4月20日(月)、14時の予定です。
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