【前回の記事を読む】少年特有の華奢な筋肉と大人の男の長さを持った腕は、アンバランスな魅力を漂わせていて…
壺を抱いたネコニャ
そうだった。「バイバイ」と言って、ネコニャはいなくなった。どんな顔をして言ったのか、まるで覚えていなかった。手の動きとか、足の長さに見とれていて、肝心の顔を見るのを忘れていた。もしかすると、あの一連の流れを持つ表情だったかも知れない。
うん。絶対にそうだろう。
時折見せるその表情は、何かを語ろうとしていた。けれど一度もその表情から言葉が語られたことはなかった。唇を真横に引いて、微笑むだけで終わるのだった。そのとき、伏せた目からは、どう表現したらよいのか解らない色をした何かが、いつも流れ落ちてきた。でもネコニャはそれを振り切るように顔を上げて、もう一度弱々しく微笑むのだった。
もしあの顔をしていたらどうしよう。
突然不安になった。ゆっくりと口からスプーンを出して、もう一度アイスクリームをすくった。皿の中に白くてとろりとした雫が、ポタポタと垂れていった。重そうだった。ミルク・クラウンなんて美しいものは絶対に作れない重い雫だ。
それが、甘ったるいバニラの味に酔いしれて感覚が鈍化している私のように思えた。その私が、ネコニャが何をしたのかと考えることを拒否した。
「まぁ、いいか。おなかが空けば帰ってくるだろうから」
勝手に納得して、アイスクリームを口に入れた。どうせすぐに戻ってくると思った。私が心地よい生活をしていたから、一緒に住んでいるネコニャも、当然そうだと思い込んでいた。
それにあの子がついてきちゃったから、私は拾った。自分の意思でここに来た子が、いなくなるわけはないと思った。ネコニャが戻ってくるところはここしかない、とも思っていた。