「そのあとの様子を喋れるかしら?」

「ええ。枯れ木の中にいるから平気よ」

私は彼女に説明を始めた。

ネコニャが失踪したのは、一緒に住むようになった日から数えて、ちょうど一年後の十月十一日だった。

玄関のドアが閉まった音の残響が耳から完全に消えた頃、私は彼との会話を思い出す気になった。

「えーとぉ……。永遠のさよならって……、何だったっけ。私が言ったような気がするけれど」

食べかけのアイスクリームを一匙すくい、ゆっくりと口に入れた。目の前に彼が食べ残したアイスクリームがあった。その白の向こうにあるドアをもう一度見た。

ネコニャの陽炎のような残像が、先ほどの情景を再現しはじめた。

割り箸のような足があぐらをほどき、すっと立ち上がった。白い靴下がフローリングの床に映っていた。そこに目が惹きつけられた。

大きな足の裏が規則正しく持ち上がり、きれいな窪みを作った。土踏まずの流れるようなラインに、背筋がぞくっとした。

うーん。すてき。

ドアに掛けられた腕は、少年特有の華奢な筋肉と大人の男の長さを持ち、アンバランスな魅力を漂わせていた。ネコニャが振り返った。左手がゆっくりと耳のところまで上がって、細長い指が丸くなった。

可愛いっ!

ネコニャの姿は、6Hの鉛筆で描いたデッサン画のように繊細で、薄い色をしていた。

それがすうっと軽く消しゴムをかけたように、ドアの向こうへ消えていった。

「バイバイ」

え?

ネコニャの声が、頭の中に響いた。

次回更新は4月18日(土)、14時の予定です。

 

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