景浦の家をあとにして自宅へと帰る道すがら、良三は真っ赤に燃えたぎる夕陽を仰ぎ見た。

この時間帯になると基地に帰還する飛行機と隊員のことを思い出す。もっとも、特攻が主流となってからは故障以外で帰ってくる機などなかったが。

あれから半世紀以上の歳月が経過し、まだ子どものような青年だった良三は八十六歳になった。

小隊長に撫でてもらった坊主頭は禿げ上がり、飛行機のエンジンを始動するために重たいエナーシャハンドルを回していた腕はやせ細って枯れ木の枝のようだ。

良三はふと、地面に伸びる二人の影を見比べる。若菜の影のほうが長くなったのはいつだったか。縮んだ体に当時の面影はどこにもなかった。

(小隊長。戦争が終わって六十四年も経ちました。ですが自分は……まだ己が何をすべきか分かりません。ただ悪戯に年を食うばかりです)

「おじいちゃん」

柄にもなく感傷に浸っていると不意に横合いから声が差す。

一緒に搭乗員たちを見送った女子挺身隊と同じ年頃となったものの、当時の女学生とは雰囲気から背丈など、何から何まで違う孫娘から。

「あとで……ちょっと話があるの」

「なんだなんだ。急にかしこまって」

「うん、あのね。ちょっと進路のことで……」

「新郎? もう婿に行っちまうのかよぉ」

耳が遠いせいで素で聞き間違えたのか、はたまたボケたがりの性格ゆえか、良三がくだらない返答をしたことで若菜は呆れた。

そのお返しと言わんばかりに耳元で「し・ん・ろ!」と言い返したが、この老人相手では暖簾に腕押しだろう。

「あぁ、進路かぁ。行きたい高校見つかったんか?」

「高校っていうか……その先のこと、かな」