【前回記事を読む】タクシーに乗り込んだ彼女は、窓を開けてこちらを見ていた。“最後の一言”をかけた時、その目には一筋の涙が…

Case: A 夫の選択

「本当にこれで良かったんですか、課長」

振り向きざまに言うと課長がそこに立っていた。当たり前だが普通のスーツで。

「さぁな。何が正しくて何が悪いのか判断するのは俺じゃないから」

「ずるいです、その答え……」

「キミはどちらが正しかったと思う? 東さんと涼介くんを生贄にして涼子さんの命を繋ぐのと、運命に逆らわないまま涼子さんに生涯を閉じてもらうのと」

「でも、仮に東さんが命を差し出さなかったとしても近いうちに……」

「この際、東さんの病は抜きにして考えてくれ。もしも東さんが病魔に侵されていなかったらどうする?」

「……というと?」

「心臓、腎臓、膵臓でもなんでも良い。とにかく涼子さんは重い病に侵されていて余命幾ばくもない状況にある。助かる唯一の方法が臓器移植。そんな時、涼子さんへ臓器を提供するために東さんが自らの命を絶つ。さぁ、これならどうだ? 実際には自殺した身内から臓器移植手術はできないんだがそこには目を瞑ってくれ」

そんなの間違ってるに決まってる、と喉元まで出かかった。だが冷静に考えてみれば自分を犠牲にして愛する人を救うという結果に変わりはない。違うのは自分の子どもを巻き込むか巻き込まないか。

子どもを巻き込んでは駄目だと考えるのなら、独り身であれば構わないと言っているも同然だ。