Case: A 夫の選択:結

涼子が退院してしばらく経ち、その間、課長は何度か葵を死神の仕事に立ち合わせた。当然だがお年寄りから子どもまで毎日大勢の人が亡くなる。

警察の世話になったり暴走族に入ったりと周囲に迷惑ばかりかけていた三人姉弟の末っ子は『姉ちゃんたちと比べて俺だけ出来損ないだからさ。たまには役に立ちてぇんだ』と言って脳梗塞で倒れた父親に命を差し出した。

普段は厳しく、調理師の方から恐れられている板前は『この年で死なせちゃ、預からせてくれたお袋さんに顔向けできねぇからな』と言ってバイク事故で昏睡状態に陥った弟子の青年に命を差し出した。

課長は顔色ひとつ変えることなくその人たちに向き合い、淡々と“業務”をこなしていく。医療従事者でもないのに人の死に触れることが急激に増えた葵は命の取引の現場から帰るとドッと疲れが湧いてすっかりベッドが友だちになってしまった。

「あー疲れた。湯船に浸かりながら寝るトコだった……」

葵はモゾモゾと芋虫のように体を動かしながら両耳のピアスを外した。ひまわりを模したそれは外側の花びらが淡い青色のターコイズで作られており、中心部分が金色で構成されている。少々子どもっぽいがお気に入りだ。

「たまには別の付けようかなー」

と言ってもそれほどたくさん持っているわけではない。過度な装飾品でなければ会社も許可しているので必然的にお気に入り中心になってしまう。

あと一年で四捨五入すれば三〇歳なのだから、もう少しフォーマルなピアスにしようかと通販サイトをサーフィンしているうちに葵は夢の世界へ誘われた。

次回更新は3月14日(土)、11時の予定です。

 

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