【前回の記事を読む】取引先の人は、私の体を知って「訳あり商品」と呼んだ元カレだった。しかも、貰った名刺に書かれていたのは…

訳アリな私でも、愛してくれますか

会議が始まり、新しい広告を打ちたいという話を持ちかけられる。

「友人のよしみで、うまくやってくれませんか? この値段から、もう少し下げられませんかね?」

篠田や上司がいる手前、一応敬語を使ってくるが、視線はくるみへと向けられている。価格だけで言うとすでに極限まで下げたものだ。篠田が受注する際、とにかく安さを売りにしたのだろう。くるみがこの価格で受注したいと上司に申し出たら、お前の交渉力が足りないのだと叱られる。

(うちの課長、篠田さんに甘すぎじゃない? なんでこの価格で引き受けたの……)

さらに苛立ちが加速する。それをなんとか心のなかで噛み殺して、営業スマイルならぬ営業困り顔をしてみせた。

「誠に申し訳ございませんが、これ以上の価格でお引き受けするわけにはいかないのです」

「いや、ぜひお引き受けしようじゃないか。長くお付き合いいただけるのであれば」

(え……)

くるみの隣で、課長が決裁を下した。くるみのプライドも何もない。それを聞いて安心した大輝は、歯を見せてにかりと笑った。

結局、課長が提示した価格での受注となった。一度大輝が電話で席を外した際、課長から大輝の会社の親会社との取引にも関わるかも、と思って特別価格にしたのだと聞かされた。それに加えて、「水瀬もこれで旧友に顔が立つだろ」と言われてうんざりしてしまった。

「水瀬、下までお送りして」

エレベーターホールで、課長にそうせっつかれる。できれば早く1人で玄関まで降りて帰ってほしかったが、取引先にいい顔をしたい課長はそれを許してくれない。

「くるみ、ちょっと話そうよ。久しぶりだし」

大輝もそう言ってきて、結局くるみは大輝とともにエレベーターに乗り込んだ。

「ここで働いてたんだな」

「……はい」

「なんだよ、カタいじゃん。久しぶりなのにさぁ」

隣に立った大輝が、ちらりと視線を胸元に向けてくる。多くの男性は自分の視線が女性の身体のどこに向いているのか、女性に悟られていないと思っているようだ。しかし女性たちは常にそういう視線にさらされている。

すれ違う男性にも、少し遠目の距離から顔を見られ、その後に胸を見られ、足が出ていたら足を見られ、そしてさらに近づいた時にもう一度顔を見られる。それがお決まりなのだ。

エレベーターが1階に到着し、大輝を先に降ろして自分もあとからついていく。ようやくビルの外に出て、この地獄のような時間も終りを迎えると思った。しかし──。

「治ったの? それ」

大輝はあごをしゃくり、くるみの胸元をさした。どっちの胸がないとか、そういう細かいことはもう覚えてすらいないのだろう。

大学であの大輝の発言を聞いたあと、理由は告げずに別れたいということだけ伝えてLINEをブロックした。そのせいもあって、大輝は自分がくるみに何を聞かれたのか、全く知らないでいる。