「さっきの食べ物の話!」
「え?」
「だから学祭の、です!」
真琴は現実に引き戻された。
「餃子なんて、どうかなぁ?」
真琴はぽつりとつぶやいた。
「餃子?」
「クレープもいいけどね、わたし餃子がいいと思うの」
真琴は駐車場に到着して、助手席にみきを乗せる。
ここ最近、水曜日のサークルの日には、みきを乗せて帰ることが多くなった。別に特別理由があってのことではない。三か月くらい前から、たまたま、みきと親しく話をするようになって、一学年後輩だけど、浪人していたらしく同じ年齢だと分かった。みきのファッションが目立つので、どんな人物なのか興味を持って親しくなったのだ。
みきもなぜか自然に真琴についてくるようになった。
「餃子って、焼き餃子ですか?」
車を発進させたところでみきが聞いてきた。
みきはいつも敬語を使う。学年は一コ下だという意識があるようだ。
真琴はそんなこと気にしなくていいのに、といつも思っている。
「ううん。水餃子はどう?」
「水餃子!?」
「うん、そう。水餃子だったら、餃子を作っておいて冷凍にして、あとは茹でるだけじゃない?」
「うんうん」
真琴の意見にみきは乗ってきたようだ。
「茹でた餃子は、ポン酢でもいいし、適当に調味料を置いておけば、味変もできるし」
真琴は照れたように言う。
「去年ね。豚汁を作っていたグループがあったんだ」
どこの部か忘れたが、大きな鍋に具材を入れて、豚汁を作っていたグループがあった。あらかじめ作っておけば、あとは器に盛りつけるだけだから、学祭の最中に調理をしなければいけない焼きそばやたこ焼きと比べると、当日はあまり追い立てられなくて済む。しかもそれなりに売れ行きもよかった。
「水餃子は仕込みが大変だけど、冷凍できるから作ってさえおけば当日は楽勝じゃない?」
「うんうん!」
みきが助手席から乗り出してきた。
「真琴先輩! ナイスアイデア!」
「そう思う?」
「うん。思う、思う! 名づけて、餃子大作戦! 早速、紗英部長にLINEしておきましょうよ~」
と、みきはスマホを取り出した。
「あ、ちょっと待って」
「え?」
「何をするかはあとで言おうよ。チア部の確約を得てから、メニューを決めるときに言ったほうがいいと思うの」
真琴はハンドルを握った片手を離して、みきのスマホを押さえた。
「でも、何にするかってのも、ある程度決めておいたほうが……」
みきはスマホを押さえられたまま、真琴に反論する。
「うん、そうだけど……」
真琴は口元に指を持っていき、内緒のポーズをした。
「今はまだ水餃子のことは、言わないでおこう」
「分かりました」
真琴には何か考えがあるのだろうと思って、みきはスマホをバッグにしまう。
「とりあえず、水餃子の件は、二人だけの話にしておいて」
「はい」
「ありがとう」
真琴は笑顔で言った。
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