【前回記事を読む】派手好きでこだわりがある後輩のファッションチェックをするのが部活後のお約束!密かに歩く〇〇と言われていた…
1 医学祭
「あ、ほら! 真琴先輩の番です!」
先ほどから、みきがすぐ後ろでずっとついてきている。
「何がいいですか? 焼きそばはほかのサークルがやっているし、たこ焼きもそうでしょう。あっ! クレープなんて、どうです? クレープ!」
ちらちらと赤いTシャツが後ろで動く。蛍光色だから、太陽にも反射して余計に目がちかちかする。
「わたし、クレープに一票!」
みきは真琴の斜め前に身を乗り出して、人差し指を空に向け、一番のポーズをした。
「ああ~! 今、考え事してるんだから! もう、みきは黙っていて!」
真琴はみきの体をよけて、駐車場に向かう。
「どうしたんですかぁ? 真琴先輩? さっきまであんなに乗り気だったのに。医学祭の出し物、何がいいかって」
みきは、眉を寄せて頬を膨らませ、怒っているポーズをとっている。
「そんなかわいい顔しているのに、眉を寄せたら幸せが逃げるよ」
真琴はみきの眉に指を当てる。
「ええ~。真琴先輩って、おばあちゃんみたい!」
みきは一気に笑顔に戻った。
「おばあちゃんって……」
「だってぇ。眉を寄せたら幸せが逃げるって、今言いましたよね?」
みきは面白いことを言われたように、けらけらと笑っている。
「そういうの、みきはおばあちゃんから言われなかった?」
真琴は弁解するように言った。
「言われませんでしたよぅ! そもそも、うち、おばあちゃんいないし……」
みきは口をすぼめて言い訳をする。
「あ、そうなの? おばあちゃん、早くに亡くなったの?」
真琴は昨年祖母を亡くしたばかりだ。
「ううん。もうはじめからいないんです。あ、うちは両親もいませんし……」
「え?」
「両親も早くに亡くなったので、わたしはおじさんに育てられたんです」
みきは特にこだわる様子もなく答えた。
「おじさんのところ……?」
「ええ、そうです。おじさん」
「へぇ。じゃあ、そのおじさんと二人暮らし?」
真琴は友人の顔を思い浮かべた。一人似たような境遇の友人がいる。
「でも、おじさんはほとんど海外にいて、今住んでいる家には誰もいないんですけどぉ」
みきはおどけて言った。悲観的にはなっていないようだ。
「あ、そうなんだ」
真琴は少し友人と違うと思った。ただ、両親を早くに亡くしたという点は一緒だった。
「じゃあ、ずっと一人?」
「そうです。でもまぁ、一人も慣れればたいしたことないですよ!」
みきの顔は明るい。
「それより!」
みきは元気よく言った。