Ⅱ. 失語症者の「当たり前」を取り戻す

失語症者の事情

右利き者のうち、多くの失語症者は左大脳半球の言語野周辺の動脈が詰まったり出血したりしてその先の脳神経細胞の働きに何らかの問題が生じ、

その領域の神経回路が担っていた言語機能が正常に機能しないために「話す」「聞く」「書く」「読む」「計算」の側面が多かれ少なかれ障害されその組み合わせの結果、失語症状が出現します。

その症状は傷ついた領域の位置や大きさに応じて軽度から重度まで様々で、ご当人の保たれている言語情報処理経路の程度に応じて言語聴覚士の介入方法も多様です(1)

言語聴覚士は従来、良好な言語的コミュニケーションが成立するよう静かで落ち着いた環境を備えた言語室で失語症の患者さんと向き合うことがベストと考えられてきました。

同じリハビリの職種でも、歩行のような大きな筋肉を使う動作の障害に対応する理学療法(PT)や手先の巧緻性を要する応用動作や精神的な問題の障害に対応する作業療法(OT)は話し声が飛び交うにぎやかな機能訓練室で身体機能障害に対する施術が行われているのに対し、言語室は別荘のようにひっそりとした趣があります。

しかし、実際の日常会話はそれほど静かな環境下で実現できるわけでもなく、言語室に籠っている患者さんとSTが外から見えないために中でどのような言語リハビリが行われているか、

仲間のリハセラピストでもよく知らない事態もあり得ます。また、言語室の中で患者さんが再発したり癲癇発作を起こすと適切に対応できない場合があり、

最近では予期せぬハプニングに備えて、言語室のドアを透明にしたり開放したりする病院も少数ながら出てきているようです。


(1)関 啓子『失語症を解く 言語聴覚士が語ることばと脳の不思議』、人文書院、2003

(5)関 啓子『「話せない」と言えるまで 言語聴覚士を襲った高次脳機能障害』医学書院、2013、推薦の序p8

(6)関 啓子『失語症を解く 言語聴覚士が語ることばと脳の不思議』、人文書院、2003

 

👉『脳卒中が拓いた私の人生』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】まさか実の娘を手籠めにするとは…天地がひっくり返るほど驚き足腰が立たなくなってその場にへたり込み…

【注目記事】銀行員の夫は給料50万円だったが、生活費はいつも8万円しかくれなかった。子供が二人産まれても、その額は変わらず。