はじめに
私は国家資格化されるずっと以前から40年以上にわたって活動してきた言語聴覚士です。
言語聴覚士(Speech Therapist、以後ST)という仕事は、人間が持ち得た素晴らしい言語という極上の精神機能に着目し、その周辺の認知機能と連携させることで、よりその人らしく心豊かに過ごせるよう人々の生活を支える専門職です。大学時代にこの仕事を知って、私はこれがまさに私の天職と確信し、 STであることに誇りをもって歩んできました。
私はまた、人生の途上で脳卒中に襲われた当事者でもあります。15年前、単身赴任先の神戸で脳卒中に襲われた様子を拙著2冊[1][2]に述べています。
私は既に専門的知識を持ちこれまでこうした方々と関わってきた専門職の立場から、自分と同じような状況になった同病者ご本人とご家族、支援者に参考にしていただきたいと願いつつ、発症直後から動画や日記として克明に記録したものを不十分ながらまとめました。
発症から15年経過した現在、私は利き手の麻痺と感覚障害が残るものの、発話障害や注意障害などその他の障害は少しずつ以前の状態に戻りつつあります。コロナ禍を脱し、私は過去を振り返って、この病気が私にもたらした意味を考えました。
STという国家資格を得るまでに辿った長い道のりや発症後に広がった視野と人脈などすべてのエピソードが、まるでパズルのピースのように運命的にぴったりとはまって大きな作品を構成していると感じ、偶然を超越した過程に感動しました。
そして、隅々まで予定されたかのような私のST人生の集大成として本書を書きました。これを今脳損傷後遺症と闘っているすべての方に贈ります。
本書が既出版の書籍において私が強調してきた重要ポイント「知識」「病識」「意識」への読者の気づきを高め、皆さんの励みになりますことを期待します。