Ⅰ.突き進む「言語」の道
言語聴覚士を目指して
まずは、改めて、自己紹介したいと思います。私は大学3年だった1974年、言語学の特別授業で先に社会人になりこの臨床活動のパイオニアとして既に活躍しておられた先輩から失語症について説明を聞く機会がありました。
何しろビデオのような録画再生機器のない時代のこと、私は「失語症」の方の話し方や内容がどんな様子かイメージすることができませんでした。この話に興味を持ったので、詳しく知りたい一心で見学を申し出て、出かけた先の先輩の所属病院で、生まれて初めて「失語症」の方の話し方を直接耳にして、とてつもなく大きな衝撃を受けました。
その衝撃はいわば「啓示」とも表現でき、私は探し求めていた自分の道をついに発見したように思いました。そして、先輩の実践していた仕事を今後の日本社会に必要とされる貴重な活動と実感し、これを自分の職業にすることを決意して今年で50年、ひたすらこの道を進んできました。
本書では私が人生をかけ誇りをもって従事してきたこの仕事を言語聴覚士(Speech Therapist、略称 ST)と呼びます。
STは話すこと・聞くこと・相手の話を理解すること・食べることなど、数ある生き物のうち人間だけに授かった「言葉」を用いたコミュニケーションと、それを支える聴覚・音声・認知機能の障害に対応する専門職です。
(1)『「話せない」と言えるまで 言語聴覚士を襲った高次脳機能障害』医学書院、2013
(2)関啓子『まさか、この私が 脳卒中からの生還』教文館、2014
【イチオシ記事】あの人は私を磔にして喜んでいた。私もそれをされて喜んでいた。初めて体を滅茶苦茶にされたときのように、体の奥底がさっきよりも熱くなった。
【注目記事】急激に進行する病状。1時間前まで自力でベッドに移れていたのに、両腕はゴムのように手応えがなくなってしまった。