「何ていうか、ナオミはうちらよりも、日本の古うからン自然や伝統にしっかつながっとる感じがする。まるで肥後もっこすンようばい」
「何? それ」
「肥後もっこすは、言うてみれば、純粋で妥協せん男ン人ってことかな。まあ、女ン人にはむやみに使わんほうがよかかも知れんばってん」
伝統的な熊本人気質を持っている、と典子に言われて嬉しくなったナオミは、わざと不平を鳴らしてみせる。
「私も女なんですけど」
「え? そうと?」
「もう!」
「ばってん、どっちも周りに流されんで我が道ば行くって感じやけん、女性でん当てはまるばい」
「我が道を行くか。いいことばだなあ。自分の気持ちがしっかりしてれば大丈夫ってことよね」
「そう、そう、ナオミは世界に一人しかおらんナオミなんやけん。あっちかこっちかなんてあまり考えんほうがよかとじゃなか。周りが自分ばどう見るかに流されんで、自分が周りばどう見て何ばするかば考えたほうがよかような気がするな。あれ、うち、なんかよかこと言いよる?」
「珍しく言ってる。ほんとにいいこと言ってる。典子じゃないみたい」
「せっかく褒めてくれとるとに、そぎゃんふうに落とすと?」
「ごめん、ごめん。さっきの仕返し。でも少し気が楽になった。ありがとう」
ちょっとだけ、ナオミは心に漂っていた霧が晴れたような気がした。そして、典子の心遣いと心意気を心底ありがたいと思った。
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