グラデーション

夕映えの路面を光が駆け抜けた。窓ガラスの斜め後ろから滑るように近づいてきたホンダの小型スポーツカーが、鮮やかな黄色のボディをあたりの風景に滲ませながら追い抜いていく。

サマータイムの時計は午後八時を回っているが、八月のカリフォルニアの空にはまだ明るさが残っている。西に低くかかっている上弦の月がほのかに白い。ハイウェイI―5では車のライトが輝きを増そうとしていた。

先刻ケビンがハンドルを握ってサンタアナを出発したSUVは、一路ロサンゼルス国際空港を目指し西に向かっている。車は片側四車線右端の一番遅いレーンを走っていた。

運転席の後ろに座ったナオミは、ヘッドレストに頭を預けたままぼんやりと道路を見ていた。隣に座る母は、さっきから何も言わず押し黙ったままだ。

前方からゆっくりと近づいてきたかと思うと瞬時に飛び去る照明灯、一定のリズムで途切れては現れるレーンの白線。そして行き交う車の多彩な色が、視界に飛び込んできては消えていく。

日本は三年ぶりか、とナオミは頭の中で数えて浅い溜息を漏らした。七年生になる直前の夏休みに、國雄じいちゃんの家でひと月ほど過ごして以来の日本だが、今度は少し長い滞在になるはずだ。

サンタアナでナオミの通った高等学校は四年制で、六月に一年目の九年生を終えた。だが、日本の高校一年にあたる十年生には進級せず、日本で半年間受験勉強をして、来年の三月に熊本市の高等学校を受験するつもりだ。