ナオミ・ハヤシは、カリフォルニア州サンタアナで三代続く庭師の家に生まれた、日系四世のアメリカ人だ。日本語では林奈穂美と書くが、「ナオミ」は聖書の『ルツ記』にも登場する名である。英語では「ネイオウミ」と発音されるが、どちらの言語でも通用する。

ナオミの曾祖父林清治と妻の千鶴は、日本からのアメリカ移民が本格化した一八九〇年代の半ばに熊本から渡米した。

日本人移民はその頃から一九〇〇年代にかけて、過酷な労働に耐えて野菜畑や果樹園の開墾を進め、生産流通の主要な担い手となる。清治夫婦も渡米直後は果樹園で働いていたが、やがて手先が器用なところを見込まれて、庭師の友人を夫婦で手伝うようになった。

十数年を経て、丁寧な仕事で注文が舞い込むようになった友人が事業を拡大し、清治も店をひとつ任せられた。

それ以来、祖母セーラの夫で入り婿のライル、そして父ケビンへと引き継がれた「ウッディ・バレー・ガーデニング」は、堅実な仕事で顧客を増やし、地域の老舗の庭師として知られるようになった。

三世代の夫婦は全員が日系人である。ナオミは一人娘なので、庭師の四代目として跡を継ぐことはかなり現実味が薄いとケビンは思っている。可能性がないわけではない。ナオミ本人が望んで庭師になる、あるいはナオミが庭師と結婚することもあり得る。

だが、それよりも従業員の有望株に店を譲るか、あるいは自分の代で店をたたんでも構わないと考えている。造園業は日系人の典型的な定番の職業で、それだけに社会的信用も確立されている。