【前回の記事を読む】「黄色い皮をむくと中身は白」日系人は"バナナ"と言われているらしい

グラデーション

日系人はアメリカ社会で、住む場所や仕事や結婚などではあまり枠をはみ出さない。混血が進んで外見の特徴が薄れることも少ないし、独自の伝統や習慣を失ってもいない。

ナオミ自身も、自分たちは溶け込みも同化もしていないが、価値観や道徳などではアメリカ文化になじんで変化を遂げたと思っている。自分たちの風習や血統は保ちながら、考え方はワスプ的主流に近づいている。バナナとか皮を被ったワスプというのは、こういう日系人の傾向の喩えだろう。

ナオミの話を興味深そうに聞いていたマティアスが尋ねた。

「へえ、面白いけどちょっと棘のある言い方だな。ナオミはそんなふうに言われるとどう感じるの?」

「別に何も感じないな。嬉しくもないし悲しくもない。ああ、そうなんだ、くらいにしか思わない。マティアスはヒスパニックと呼ばれると何か感じる?」

「同じだね。特に何も感じないし、マイノリティっていう意識もあまりない。今じゃ黒人を抜いてアメリカ最大のマイノリティで、人口の二割近くがヒスパニックだし」

「そうだよね。マイノリティって、本人はあまり気にかけてないよね。何かの時に、ああ、そうだ、私そうなんだって、そんな感じだよね。で、それにしても、そのご飯おいしそうだけど、いつ見てもすごいね」

ついつい気になるマティアスの好物にナオミが話題を転じると、マティアスが待ってましたとばかりに言う。

「試してみなよ。うまいってば、絶対はまるよ」

「試すなら自分の部屋でね。学食じゃ、ちょっと。一応レディですので。卵かけご飯に納豆を載せるのはたまにやるけど」

ナオミが告白すると、マティアスも興味を示す。

「日本の生卵は安心だからね。鶏にワクチン接種してるし。アメリカじゃやってないから、サルモネラ菌が心配だよね。生で食べるのはちょっと」

「品質管理してる養鶏場から仕入れてる日本食品店の卵なら、アメリカでも大丈夫よ。でも、私は六年生の時熊本に来るまで食べたことがなかった。

始めはちょっと気持ち悪かったけど、慣れるとお醤油をちょっと垂らした卵かけご飯が大好きになっちゃった。バターとか納豆を載せるともっとおいしいし。熊本の國雄じいちゃんの家では鶏も飼っていて、毎朝新鮮な卵が手に入ったの」

マティアスの目が輝いた。何か思いついたらしい。