【前回の記事を読む】山も風も、そして人も。三年ぶりの熊本はすべてあの時のままだ。思い出の地での暮らしの中、ナオミは高校入試の勉強を始める

グラデーション

三月中旬に発表があり、ナオミは念願かなって、熊本県立嘉納高等学校に晴れて合格した。入学手続きをすまし、購入したばかりの真新しい制服に袖を通した日、國雄にスマホで撮ってもらった制服姿の写真や動画をSNSにアップすると、早速サンタアナの家族から、おめでとう、とメッセージが書き込まれた。

翌日の昼、夕食後の時間帯のサンタアナにビデオ通話をつなぐと、安心したのか母リサと祖母セーラは少し泣きそうになっていた。制服がかわいくてとても似合っていると、両親も祖父母も喜んでくれた。

アメリカの中学校や高校の制服は、東海岸の名門私立高校などにはあるが、西海岸ではあまり見かけない。服装は基本的に自由だが、学校のドレスコードで禁止されている服装もある。

政治的なメッセージや、タバコ、マリファナ、アルコール関連の柄が入った服装。女子のヘソ出しブラウスやミニスカートやピンヒール。それに男子の腰パンや袖なしムキムキTシャツなどだ。

それに比べれば何と健全なことか、とナオミはいささか物足りなさを感じながらも、制服のデザインは気に入っていた。女子はグレーのブレザーに赤のリボンタイと、紺に朱色をあしらったチェックのスカート、男子は同色のブレザーにネイビーブルーのネクタイ、そして紺のパンツの組合せである。

四月初旬、桜の花もすっかり散ってしまった頃、ナオミは國雄や佳枝ともども入学式に臨んでから、二人と別れて自分の教室に向かった。校舎は、数年前の耐震工事の際に、しゃれた内装を施されていた。

教室のスライドドアと廊下に面した壁には大きなガラス窓があり、上が透明で下へ向かってパステル調のくすんだ色合いのグラデーションが濃くなっている。一年生の教室は緑、二年生が青、三年生が橙色だった。

ドアの中央部の少し上のあたりで、学年と組の数字が丸ゴシック体で透明に抜いてある。ナオミの教室のドアには、1-2と大きめに横書きされていた。

自由に着席して担任教師の到着を待つように、との指示だったので中を覗いてみると、すでに大半の席が埋まっているようだ。ナオミは後ろのドアを開けて中に入った。

その時目に飛び込んできた教室の様子に、ナオミはあらためて驚いた。クラスメート全員の肌と髪の色が一様なのは予備校で経験ずみだった。だが、全員が同じ制服を着て、黒い肌や白い肌の生徒もいなければ、茶色やブロンドの髪も見当たらず、青やグレーや緑の瞳も見あたらないのは、やはり、不思議な眺めだった。

教室の後方で一瞬立ちすくんだ彼女を訝しく思ったのか、続いて入ってきた鶴山典子が「どうかしたと」と、声をかけた。ナオミはすぐには返事ができなかったが、何とか当たり障りのないことばを探して答えた。