「男の子も女の子もみんな同じブレザーですごいな、と思って」
「制服やけんあたりまえやん。うちゃ気に入っとる。あ、ごめんなさい、つい熊本弁が出ちゃった。もしかして、県外から?」
「まあ、県外です」
「どこから来たの?」
人当たりは良さそうだが、未知のクラスメートからの率直な質問にやや気圧されながら、ナオミは正直に答えた。
「えっと、カリフォルニア、アメリカの」
「ええ! たまがった! アメリカから来たと? あ、ごめん。アメリカから来たの? どうして、また。あ、ごめん。余計なこと聞いちゃって。とにかく空いてるとこに座ろう。ほらここ、いいみたいよ」
「ありがとう」
二人が自己紹介のあと雑談をしていると担任教師が現れ、席決めをして連絡事項をいくつか伝えたあと、簡単な自己紹介を全員が行って、その日は下校となった。ナオミと典子は連れだって校門に向かい、通路の両脇に陣取ってクラブ活動の勧誘に声を張り上げる上級生の間をくぐり抜けて、近くのバス停まで一緒に歩いた。
知人や友人の少ない異境の地で心細い思いをしていたナオミは、面倒見の良い典子とは気が合った。二人とも帰宅部だったこともあり、放課後によくファストフード店に一緒に行くようになり、そのうちにナオミが下宿している國雄の家や、典子の自宅にまでバスで足を延ばしては、おしゃべりを楽しむようになった。
典子にとってナオミは、容姿は日本人なのに考え方も話し方もいかにもアメリカ人らしそうなところが満載で、興味が尽きなかった。ナオミにとって典子は、お節介好きで気の置けない「おばさんJK」だった。
それに、典子の熊本弁の響きも好きだった。二人でいる時はおねだりして、なるべく熊本弁で話してもらった。
「典子って、太っ腹で世話好きのおばさんJKって感じよね」
「おばさんな勘弁しなっせ」
と言いながら、爽快に笑い飛ばすところがいかにもおばさん的で、姉御肌で面倒見が良くてロマンチストで天然なところも、『パフィー』のアミみたいだなとナオミは思った。
セーラームーン、パフィー、マリオ、トトロ、キキ、アナ。おしゃべりをしていると、二人の大好きなアニメやゲームのキャラクターがどんどん出てきて、話題が尽きなかった。
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