赤ん坊を見た二人は絶句した。それでも年かさの三吉が、
「おっ、お上人、す、捨て子ですか」
「そうだ。お前は藤島のお富さんを呼んできてくれ。水アメか砂糖も持ってきてくれるよう頼んでこい。千太、お前は急いで火を起こして大きな釜で湯を沸かしてくれ。急いでな」
三吉は弾かれたように寺を飛びだした。その間朋来はいったん赤ん坊を座布団に寝かせ、何か身に付けていないか調べはじめた。すると、胸のあたりに硬い物が手に触れた。
取り出してみると、「神尊(そんじん)さん」という鬼子母(神(きしぼじん)が納めてある木筒だった。蓋(ふた)を取ると、鬼子母神と小さな紙切れが納められていた。開いてみると、 「謙志郎、昭和十四年十一月十一日生まれ」と記され、
さらに、
「謙ぼう、許しておくれ」
と書かれていた。朋来の目が潤んだ。
「すると、この子は産まれてまだ二週間ではないか。それに今日は七五三だ。この子の母親だろう。この子を助けたい一心で、寺の前に置いて行ったのだろう。いや、そうではない。日蓮宗で奉る鬼子母神の像をこの子に持たせているが、この像はかなり古い。母親は、ここを日蓮宗の寺と知っていて、我が子の無病息災を信じて行動したに相違ない」
感慨にふけりつつ、赤ん坊をじっと見つめた。
「こんなことをするからにはよほどの事情があるのだろう。案外この子は近くで産まれたのではなかろうか。母親はこの子が拾われる寸前まで抱きしめていたに違いない。そうでなければこの寒空、赤ん坊は助からなかったろう。
俺が出てくる頃合いを心得ていたのだ。そこまで慎重な行動を取ったからには、母親はもうこの世にはいないかもしれない。一心に我が子の成長だけを尊神さんに託しながら……。何とかこの子が立派に育つように見守ってやらんとなあ」
彼は心の内でそうつぶやいた。