【前回の記事を読む】三種の神器を取り戻すため、帝釈天と弁財天は地上へ降りる決意をする。それを聞いた十五童子たちは――

第一章 天界で奪われた三種の神器

「どうしてもというのか」沙伽羅龍王はいった。

「是が非でも」弁財天は応じた。

「五人でどうか」帝釈天がいった。

「それは多すぎる。ひとりかふたりじゃ」沙伽羅龍王はうろたえた。

「では、三人でどうじゃ」帝釈天が尋ねた。

「三人か」沙伽羅龍王は思案した。

「よし、三人じゃ。それ以上はひとりも増やせん」

十五童子の間に安堵の空気が広がった。むろん、全員が行けぬことに不満もあるだろうが、たとえ三人であろうとも、人間に転生して地上に降り立つ弁財天に尽くせることに喜びを感じているようであった。その思いが、弁財天の心に染みた。

「よし、散会じゃ。我は一切話を聞かなかったことにする。健闘を祈ることしかできず誠にかたじけないが、どうか三種の神器を取り戻してくれ」沙伽羅龍王が立ち上がった。

「我らこそ、無理をいってすまぬ」弁財天は頭を下げた。

「弁財天よ、我は先に地上へと旅立つ。ぬしと合流する日を心待ちにしているぞ」帝釈天はそういって席を立った。

「全員を連れていけずかたじけない」弁財天は十五童子に声をかけた。

「どうかお気遣いなきよう」牛馬が首を横に振った。

「誰がお供をいたしましょう」牛馬の問いかけに、弁財天は一呼吸を置いていった。

「牛馬、筆硯、飯櫃。そなたら三名に転生を命ずる。ともに地上へ降り立ってくれ るか」